大阪地方裁判所 昭和49年(ヨ)3921号 決定 1974年12月10日
申請人 半田勝己
<ほか三名>
右代理人弁護士 松本健男
同 西川雅偉
被申請人 羽曳野市長 津田一朗
右代理人弁護士 杉山彬
同 福山孔市良
同 大川真郎
主文
本件仮処分申請を却下する。
申請費用は申請人らの負担とする。
理由
判断の要旨は以下のとおり
一、申請人らは「被申請人は羽曳野市伊賀六丁目に建築した公営住宅一〇〇戸(東住宅、以下本件公営住宅という)への入居者の入居手続を申請人らと協議せず一方的に進めてはならない。」との仮処分命令を求め、申請理由の要旨は「被申請人は、公営住宅法一八条にもとづき本件公営住宅に対する入居者決定権限を有するところ、本件公営住宅の入居者募集ないし入居者選考手続は、公営住宅法一八条にもとづく公正な方法による選考の原則、同和住宅への入居者選考手続は同和行政の窓口一本化の原則にもとづき、財団法人大阪府同和事業促進協議会を通じ部落解放同盟大阪府連向野支部もしくは向野地区住宅要求組合と協議して実施するという大阪府下同和行政の基本準則ならびに昭和四九年五月末の府同促協会長との間の右同和行政の基本準則を遵守する旨の確約のいずれにも違反する違法かつ不当なものであるから、羽曳野市向野地区の部落会区長である申請人らとの協議をつくさずに、被申請人が本件公営住宅への入居者決定にともないさらに具体的な入居作業手続を実施することの停止を求める。」というものである。すなわち、本件仮処分申請は、被申請人による右入居者決定処分の違法、不当を理由に仮処分命令により入居事務手続の差止を求めるものにほかならない。
二、しかしながら、公営住宅の入居者決定後事業主体と入居決定者との間で設定される公営住宅利用の法律関係は私法上の賃貸借関係であるけれども、右利用関係の発生原因である公営住宅法一八条に定める入居者の決定は事業主体の長が法令の規定に従って行なう行政行為とみることができ、行政事件訴訟法四四条にいう「行政庁の処分」に該当するものと解せられる。そうだとすれば、本件仮処分申請は行政庁の処分に関しその効力作用を阻止することを目的として民訴法に定める仮処分を求めるものであるから、行政事件訴訟法四四条の規定に牴触する不適法なものであり、この点においてすでに却下されるべきである。
三、疎明によれば、申請人らは前記のとおり羽曳野市向野地区部落会区長(申請人半田勝己は部落会会長)であり、かつ部落解放同盟大阪府連向野支部の役員(申請人半田一郎を除く)ではあるが、いずれも本件公営住宅の入居申込者ではないことが認められる。そうだとすれば、申請人らは本件公営住宅の入居者決定処分によって、直接に、自己の法律上の権利又は利益を侵害された者に該当するとは認められず、他に申請人らに訴訟遂行権を認むべき特段の事由を見い出し得ないから、申請人らは本件公営住宅の入居手続停止を求める正当な当事者としての適格を有せず、本件仮処分申請はこの点でも不適法である。
四、なお、当裁判所は、申請人らが本件公営住宅の入居者選考決定手続の違法事由とするもののうち、申請人ら主張の「窓口一本化」の原則に従い被申請人が右入居者選考に際し部落解放同盟大阪府連向野支部等と協議実施する点については、同和行政上の当否の問題に留まり、本件疎明資料による限り、地方自治法一〇条二項、一三八条の二等の規定に照らし、その法律上の義務の存在を消極に解するものである。しかしながら、本件仮処分申請は、その内容の適否を判断するまでもなく、前記事由で不適法である以上、さらに本件公営住宅の入居者決定手続の適否について判断すべきものではなく、これを直ちに却下するのが相当である。
よって、主文のとおり決定する。
(裁判官 藤田清臣)